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益城町を歩いて(3) 耐力壁のバランス
まず、耐力壁って何でしょう?
耐力壁は、地震や風などの水平荷重(横向きの力)がかかった時に対抗(抵抗)する能力を持っている壁のことを言います。
「すじかい」と呼ばれる斜め材が入っていたり、合板を柱,間柱,横架材(梁や土台)に打ち付けた面材耐力壁もあります。
建築基準法では、建築基準法施行令第46条に
「すべての方向の水平力に対して安全であるように、各階の張り間方向及びけた行方向にそれぞれ壁を設け又は筋かいを入れた軸組を『釣り合い良く』配置しなければならない」
とあります。
「釣り合い良く」と入っていますね。その「釣り合い良く」をチェックする方法のひとつが、「4分割法」と言われている方法で、国土交通省 平成12年告示第1352号に決められています。簡易な方法ですが、現在多くの木造2階建ての建物がこの方法で耐力壁のバランスをチェックしていると思います。私自身もこの方法でチェックしています。
4分割法は簡易な方法ですが、簡易でない方法というのはどのような方法なのかと言うと、偏心率を出すということになります。
偏心率というのは、建物の『重心』(建物の平面形状の中心)と『剛心』(水平力に対抗する力の中心・・・つまり、強さの中心)の距離の比率です。地震力は各階の重心にかかります。重心で水平方向に変形して、それだけではなく、剛心を中心に「回転」します。
なので、重心と剛心が離れていると(偏心率が大きいと)部分的に大きな変形の力(ねじれ)がかかる訳ですね。一部分が損傷すると、地震力がそこに集中することになり、建物がその部分から崩壊してしまうということです。
建築基準法では、平成12年(2000年)の改正で、木造住宅においては「偏心率は0.3以下であること」と規定されました。ただ、専門家からは、0.15以下が望ましいとの見解が出ています。
今回倒壊してしまったこの建物がどのような方法でバランスをチェックしていたのかは手元にある資料だけではわかりません。4分割法でチェックすると、当然クリアしています。
↑ 太い線が耐力壁,細い線は非耐力壁です。
手元の設計図書を見ると、4分割法でクリアはしているものの、建物の東北の隅角部にY方向の耐力壁がないことが気になります。なので、偏心率をざっくり計算してみました。
1階 X方向の壁 0.10410 Y方向の壁 0.26415
2階 X方向の壁 0.04105 Y方向の壁 0.11691
各階、張り間,桁行方向共に偏心率は0.3以下です。基準法はクリアですね。専門家推奨の0.15以下には1階のY方向がクリアしていませんが。
このような、偏心率のバラつきがどのように影響したのかも正直なところよくわからないのですが、こういったことが積み重なって、今回の倒壊に至ってしまったということでしょう。
建築基準法に準拠していても「安全」とは言えないということですね。もっとも、建築基準法自体がある意味「最低ライン」と考えても良い基準であることは間違いありません。建築基準法=耐震等級『1』は「大きな地震が1回グラッと来た時に、建物が倒壊しない」程度ということです。そういう意味では、この建物も、1回目の震度7では倒壊していないので、基準法の目的は達成されているということになります。
2016/11/14